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命をもらって紡ぐ糸。【しけ絹】に魅せられてUターン【富山県南砺市】

こんにちは。田舎の暮らし方編集部です。

皆さんが普段なにげなく接している食料品や衣料品にも、生産者の努力や産業の歴史が必ずあります。野菜一つとっても、畑を耕し、種を蒔き、出てきた芽を育てて収穫したお百姓さんの努力や、その土地でその作物がつくられるようになった歴史があるのです。

衣料品に目を向けてみましょう。皆さんが今着ている衣服の素材はなんですか?
ナイロン、ウール、綿、ポリエステル、羽毛、絹、麻と、様々な種類がある中で、一つだけ「生き物の命をいただいて」生成されるものがあります。それは、「絹」です。

化学的につくられた繊維や、動物の毛を刈ってつくられる素材とは違い、絹は「蚕が吐き出した糸でできた繭」からとりますが、繭から糸をとる過程で蚕は命を保つことができず、その一生を終えてしまいます。私達はそうしてできた絹製品を日常的に身についけているのです。

通常、1頭の蚕は1つの繭をつくりますが、まれに2頭で1つの繭をつくることがあります。この2頭が吐き出したことで複雑に糸が絡み合う繭を「玉繭」と呼び、玉繭からとった糸を織った絹を【しけ絹】と呼びます。人工的に2頭を近づけてもこの玉繭は生まれません。偶然が生み出した産物なのです。

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前置きが長くなりましたが、本題に入りますね。

富山県南砺市の城端(じょうはな)という地域は、今から400年以上も昔の戦国時代末期から絹織物の産地として栄えていた場所です。江戸時代には「加賀絹」として有名になり、城端地区の半数以上の家で絹を織っていたとも言われています。しかし時代の流れとともに化学繊維の台頭に押され、「しけ絹」を織る工場はどんどん減ってしまいました。今では城端で、いや、富山県内でこの「しけ絹」を製織している工場は【株式会社 松井機業】1社になっています。

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松井紀子さんはこの松井機業の6代目。小さい頃は東京への憧れが強く、大学進学を機に上京。卒業後も都内で就職し会社員としての日々を送っていましたが、絹のすばらしさと魅力を知り、8年間過ごした東京を離れ城端にUターン移住しました。

松井さんのお話を伺っていると、優しい口調で「お蚕さん」と呼ぶのがとても印象的でした。それも「1頭、2頭」と数えるのだそうです。そういえば、同じくかつて絹産業で栄えた富山市八尾町にある若宮八幡宮では蚕を敬っていて、繭の形の手洗い鉢がありました。地域の方々は地場産業の鍵となる蚕を昔からとても大切に思っていることがわかりますね。

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絹を織って製品化まで行えるのが松井機業の強み。昔からの伝統である産業と、現代の新たな価値観を融合した松井さんは、様々な形で絹製品を展開しています。以前は【ふすま紙】が主力の製品でしたが、「2頭の蚕が1つの繭を生む」というストーリーを軸に、2014年に「JOHANAS(ヨハナス)」というブランドを立ち上げられました。たての糸とよこの糸が織り重なってつくられる美しいウェディングヴェールをはじめ、はれの舞台にピッタリなアイテムがたくさんあります。

また、最近では窓のシェード(日よけ)も好評です。もともと、繭は蚕を外敵から守るもの。このしけ絹のシェードを使うと、2頭の蚕が創った不均一な糸だからこそ生まれる独特の光の反射で、室内に優しい光が差し込みます。

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これらの製品をみると、これまで抱いていた「絹産業」のイメージが大きく変わってきませんか?

20年ほど前を最後に富山で養蚕をしているところはなくなってしまったそうで、松井機業でも糸は仕入れて絹を織っているのが現状です。また、絹を織る機械もメンテナンスは大変で、壊れてしまったら直せる業者は限られているそうです。

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課題はまだまだありますが、松井さんは前を向いてこう語ります。

「いつか、地元で養蚕し、繭を収穫し、生糸を製造し、製織した、地元産の絹をつくりたい」

実際に松井さんは、工場の中庭に桑の畑をつくり、一昨年から蚕を育て始めています。製品になるまでにはまだまだ時間がかかるそうですが、行動力が素晴らしいですね。南砺市ではこのように若い方が取り組む事業も多く、行政(市長)も積極的にバックアップしてくれるそうです。

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全国には、継ぎ手がなかなか見つからない伝統の産業がたくさんあります。受け継ぐだけでも大変な産業がたくさんあります。しかし松井さんのように、伝統を受け継ぎ、時代に合わせて発展させ、復活させたいと取り組んでいる若い方も増えてきています。

移住先を検討される際には、ぜひこのような「伝統の地場産業」にも目を向けてみてください。あなたの力を必要としている地域が見つかるかもしれません。

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